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2019年 1月 9日 [ イベント ]
No.889:初春、脚本家・倉本聰が描く点描画の世界を富山で
●森の樹と対話する静謐な時間を
倉本聰氏は、大自然の中で成長する親子を描いたテレビドラマ「北の国から」をはじめ、「前略おふくろ様」、「風のガーデン」、映画「駅 STATION」、「冬の華」など数多くの作品を世に送り出してきた。80歳を過ぎた今も精力的に執筆を続け、近年では東日本大震災を題材にした舞台「ノクターン―夜想曲」、シニア向けのテレビドラマ「やすらぎの郷」など、時代と向き合う作品で注目を集めている。
倉本氏は1977年に東京から北海道・富良野へ移住。森の樹に囲まれて暮らす中で、樹の一本一本に“人生”があることに気づいたという。この樹はいつごろ生まれ、どんな体験をし、いま何を思いながら過ごしているのだろう。想像しながら絵を描き始めるうちに、樹が語り出した言葉を文字にして絵に書き加えるようになり、森の樹の点描画を描くことがライフワークとなる。舞台のための絵コンテを手がけるうちに絵を描くことに興味を感じ、ペンの太さや打つ点の数、筆圧などを駆使する点描画にのめり込んでいったようだ。現在、作品総数は600点を超えている。
展示室では、主に2014~2018年に制作した点描画115点を公開。点の密度や濃淡によって、モチーフの立体感や陰影、遠近感を表現する点描画の独特の世界が広がる。会場は、冬、春、夏、秋、ふたたび冬のコーナーに分かれており、倉本氏の目を通して語られる“樹”のドラマを鑑賞できる。倉本氏が点描画制作に用いた画材や道具もあわせて展示されている。
樹の根っこを描き、その大切さを表現した作品には「樹は根に拠って立つ されど根は人の目に触れず」(『上の世界 下の世界』)、「死んだ者のことを 世間はすぐ忘れる 朽ちた木のことなどおぼえてもいない まして根のことなど 想うものはいない」(『朽ちた木』)の言葉が添えられている。「木は水の柱 森は水の創るパルテノン宮殿」(『木は水の柱』)、「夜明けの森は 水の匂いがする」(『森の朝』)など、森と水に焦点をあてた作品も印象的だ。 樹々の中にシカを描いた『夜明け前の森』では、「ヒトは、都市の土地を所有できても 自然を所有する権利はない しかし ヒトは自然をしっかり守り育て 子孫に渡す義務がある これは先人からの伝言である」の言葉。点描画に添えられている言葉はいずれも味わい深く、心に沁みる。
会場の冬のコーナーには、地面が凍ったときの割れる音や吹雪の音、春は小川の流れる音、夏は鳥のさえずりの効果音が流れる。自然の音が鑑賞者の想像力を刺激し、森の中を散策しているような思いにさせてくれる。
●桜の呟きに被災地への思い
東日本大震災の被災地・福島県富岡町で描いた『夜の森(よのもり) 桜はそっと呟く』シリーズは北陸初公開。「―中山さんの建てたばかりの新居は あんなに ふくらんでた 夢といっしょに 今やイノシシの棲家になっちゃった―」(『夜の森 夕景』)、「孤豚よ 何を怖れてる 人の消えたのが 恐いのか―」(『孤豚』)――同シリーズには、災害の風化への警鐘と、懸命に前を向く被災地への思いが込められている。
本展入口付近には「北の国から」の企画書や台本、五郎の「丸太小屋」の模型なども展示。大ヒットドラマが出来るまでの軌跡を見ることができる。ファンにとっては貴重な機会となるだろう。
また、本展の関連事業『はがき作品コンテスト』(テーマ:自然と話してみませんか~動物や植物たちの声を、ことばで表してみよう~)の入賞作品を企画展示室入口付近の導入エリアに展示している。
高志の国文学館では、「倉本氏が樹と対話しながら描いてきた絵と言葉が独自の世界観を紡いでいます。そこには自然や生きものに向けられた温かなまなざしがあります。初春にぜひご鑑賞ください。また、1月14日、26日、2月11日、24日には企画担当者によるギャラリートーク(各回30分程度、申込不要)を開催します。みなさまのご来館をお待ちしております」と話している。
- 問合せ
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●高志の国文学館
TEL.076-431-5492
FAX.076-431-5490
http://www.koshibun.jp/