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2019年 8月 14日 [ イベント ]

No.920:暑い夏、背筋が凍る世界と、不思議世界へ

富山県水墨美術館で、企画展「夏の美術館へようこそ 幽霊と地獄」を開催中。幽霊と地獄に焦点を当て、美術作品における表現や多彩なイメージを紹介する。富山県[立山博物館]では前期特別企画展「立山ふしぎ大発見⁉」を開催中。立山の地獄、極楽を描いた立山曼荼羅、江戸時代の立山に現れたとされる生き物「クタベ」など、鑑賞者を立山の不思議世界へと誘う。いずれの企画展も2019年9月1日(日)まで。

●愛惜や怨念などを抱いた幽霊の心情に想いを馳せて


▲幽霊図を堪能できる水墨美術館の
企画展「夏の美術館へようこそ幽霊と地獄」。
右端の掛け軸が円山応挙の「幽霊図」(左)
▲「クタベ」と会える立山博物館の前期
特別企画展「立山ふしぎ大発見⁉」(右)

 県水墨美術館の企画展「夏の美術館へようこそ 幽霊と地獄」の会場。黒のタペストリーをくぐって「幽霊」の世界に入ると、照明を落とした空間に幽霊画がずらりと並ぶ。幽霊は、現世に何らかの想いがあり、成仏できない死者。幽霊画は死者を弔うためや、何らかの念を込めて描かれたもので、江戸時代から制作が始まったとされる。同展では、掛け軸、大判錦絵、襦袢など、48点を展示。ほのかに漂う冷気、妖気に背筋がゾクゾクする。

 展示作品を何点か紹介しよう。江戸中期の画家、円山応挙の「幽霊図」は、鋭い目つきで冷ややかに微笑む女性の幽霊が描かれている。応挙は、白装束姿では生きているのかどうかわからないため、足を省略することを思いついたとされる。

 応挙の師・石田幽汀の子、友汀の作と伝わる「幽霊図」は、どこからみてもこちらを見ている“三方正面の図”。鼻筋の通った顔に大きな目は、現代のアニメキャラクターにもなりそうだ。


▲幽霊図「お玉さん」(不萬樹 作)(左)と、
石田友汀の作と伝わる「幽霊図」(右)
▲「子育て幽霊」(左)と
「呪いの幽霊」(福島県・金性寺)(右)

 不萬樹の作である幽霊図「お玉さん」は氷見市・光照寺の寺宝。結った黒髪にうつろな表情、白装束。悲哀に満ちた美人画さながらの趣がある。

 念の強い幽霊画として伝わるのが、「呪いの幽霊」(福島県・金性寺)。年貢の厳しい取り立てに抗議しようと代官のもとを訪ねた庄屋の主人が屍になって帰ってきた。農民たちはその無念をはらすため、庄屋の主人を本図に描き、毎晩読経したところ、夜毎代官の枕元に庄屋の幽霊が現れ、代官は狂死。報復することができたという話が金性寺に伝わる。

 「子育て幽霊」(福島県・金性寺)は、母の幽霊が赤い産着姿の子を抱いた図。身ごもったまま病死した農家の娘から、まもなく子どもが誕生。母の霊は、出産後の家々をまわり、乳をもらい、49日間育てたという話を絵にした。


▲中央が、駒井源琦の「骸骨と月図」(左)
▲「地獄」では、熊野観心十界
曼荼羅大楽寺本などを展示(中央)
▲日本画家・米田昌功さんの作品(右)

 円山応挙に師事し、京都で活躍した絵師・駒井源琦の「骸骨と月図」は牡丹燈籠がもとになっているとされる。骸骨が胸を張り、いささか得意げなポーズ。はかない人の世を憂うどころか、カラリと笑うようだ。

 「地獄」の世界では、地獄六道絵や地獄を司る十王の図、立山曼荼羅吉祥坊本、熊野観心十界曼荼羅大楽寺本などを展示。黒縄地獄、叫喚地獄、焦熱地獄、阿鼻(無間)地獄など、さまざまな地獄に堕ちて責め苦を受ける人の絵をみると、現代人への生き方の戒めや教え、反省につながるだろう。

 展示の最後には「弥陀三尊来迎図」と「山越阿弥陀図」が掛けられている。阿弥陀如来と菩薩たちが西方極楽浄土から臨終に際した衆生を迎えに来る場面を描いたものだ。鑑賞者は多くの幽霊、地獄の図を見てきただけに、その世界から救われた気分になれるに違いない。また、立山曼荼羅や神話の世界のイメージをテーマに作品を制作する日本画家の米田昌功さん(富山県内在住)の「鎮魂図法」「太刀山異界図」は現代のアートとして印象に残る作品だ。

 県水墨美術館では、「死後の世界と向き合い続けてきた先人たちを思い、豊かなイマジネーションを感じていただければ幸いです」と話している。

●霊獣ファン必見!「クタベ」、立山曼荼羅に描かれた「天狗様」に会おう

 富山県のシンボルとしてそびえる「立山」。その深山幽谷には霊異(不思議なこと)と畏怖(恐れおののくこと)が満ちていると古くから考えられてきた。立山博物館の今年の前期特別企画展「立山ふしぎ大発見⁉」では、第1章「“立山曼荼羅”ってなに?」、第2章「なぜ“立山”に登るの?」、第3章「立山で会える?伝説の生き物」、第4章「立山の麓の暮らしって?」、第5章「立山地獄ってどんなところ?」の5章立てで、立山の不思議世界に迫る。日頃、同館に寄せられることの多い質問や疑問の中から5つの不思議を選び、紹介している。


▲僧侶、佛山禅苗の願文(左)
▲天狗様が迎えてくれる第3章
「立山で会える?伝説の生き物」(中央)
▲木造大日如来坐像と木造菩薩坐像(右)

 第2章「なぜ“立山”に登るの?」では、天保2年(1831)6月に立山に参詣し、獅子が鼻で修行を行った僧侶、佛山禅苗の『立山参詣記』や、立山大権現への願文などを初公開。自らの血で押された左手血判が、立山に登って決死の修行を行った僧侶の信仰心の強さを物語っているようだ。

 ユニークな展示は、天狗の絵が迎えてくれる第3章「立山で会える?伝説の生き物」。立山には不思議な生き物がいるという話が残っており、「立山曼荼羅」佐伯家本には、獅子が鼻の「金蔵坊」、大仙坊A本には「天狗山の天狗」として、天狗が描かれている。雄山山頂の御本社の秘蔵の宝にも「天狗ノ爪一ツ 光蔵坊之手爪」と記されている。岩峅寺の宿坊の1つ、中道坊に伝わる「天狗様」の展示もある。来歴未詳で、箱に「天狗頭鼻」、「天狗頭骸骨」と墨書されているだけだが、立山の天狗伝説と関わるようにも思われる。

 顔が人で、体が獣の「クタベ」が初めて紹介されたことも話題だ。越中立山に現れたと伝わる霊獣(予言獣)で、幕末の刷り物に描かれている。立山に薬種を掘りにきた者に疫病流行を予言し、「自身(クタベ)の姿を見れば其の難を逃れる」と語り、さらに、「見ることのできない人々のために自身の絵を描いて知らせなさい」と伝えたとされる。

 クタべの姿もさまざまで、背中に目のあるクタベや、“名もないオナラ”に効くという「スカ屁(スカベ)」を描いた刷り物もある。「くたへ」の絵と「文政10年(1827)11月下旬」と年号が記された資料、「クタベ」を紹介した江戸時代の随筆や、悪病除けの人獣絵を紹介した『奇態流行史』(宮武外骨編集兼発行)なども見ごたえがある。また、大流行した証しとして、クタベは現代のアニメキャラクターにもなりそうな愛らしい姿。霊獣、妖怪ファンには、時間が経つのも忘れて見入ってしまいそうな、興味深い展示だ。

 第4章「立山の麓の暮らしって?」では、立山信仰の拠点集落だった芦峅寺のうば堂で祀れていたと伝えられる2体の姥尊像と芦峅寺の宿坊の一つ、福泉坊に伝わる木造菩薩坐像(李朝時代)などを初公開している。

 立山博物館では、「夏休み、自由研究で立山博物館を訪れてください。天狗にクタベ…立山の不思議世界を堪能すれば、きっと発見と驚きがあるはずです」と話している。


問合せ
「夏の美術館へようこそ 幽霊と地獄」について
●富山県水墨美術館
TEL.076-431-3719
FAX.076-431-3720
http://www.pref.toyama.jp/branches/3044/3044.htm

「立山ふしぎ大発見⁉」について
●富山県[立山博物館]
TEL.076-481-1216
FAX.076-481-1144
http://www.pref.toyama.jp/branches/3043/home.html


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