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2019年 11月 20日 [ イベント ]

No.934:詩人と画家、共鳴しあった二人の精神と創造

富山県美術館で企画展「瀧口修造/加納光於≪海燕のセミオティク≫2019」を開催中<2019年12月25日(水)まで>。富山県出身の詩人・瀧口修造と画家・加納光於の出会い、交流、創造の軌跡を紹介する。12月には、作品鑑賞が深まる講演会やTADアート・レクチャーが予定されている。

●加納の才能を見出した瀧口修造


▲第四章「加納光於 1980年以後
ー瀧口修造に沿って」では、加納光於の
油彩シリーズ≪胸壁にて≫などを展示(左)
▲瀧口修造の100点組の連作
≪私の心臓は時を刻む≫を展示(右)

 加納光於(かのうみつお 1933年、東京都生まれ)は、戦後を代表する美術家の一人。独学で銅版画の技術を習得し、インタリオと称する凹版画や、バーナーで加工した金属板を版に用いたメタルプリントなど徹底した素材の研究を基に独創的な版画作品を制作。1962年東京国際版画ビエンナーレで国立近代美術館賞を受賞するなど、国内外で高く評価されてきた。

 無名時代の加納の才能をいち早く見出したのが、富山県出身の詩人で美術評論家の瀧口修造(たきぐちしゅうぞう 1903〜1979年)だ。瀧口はヨーロッパで起こった芸術運動、シュルレアリスム(超現実主義)をいち早く日本に紹介し、ジョアン・ミロやマルセル・デュシャンら海外の作家たちとも交流。戦後は、美術評論の執筆やタケミヤ画廊での展覧会の人選を行い、若い美術家たちの精神的な支えとなった。1960年以降は、「造形的実験」と称される造形作品の制作に没頭するなど精力的に活動。日本の美術の動向に与えた影響ははかり知れない。

 加納と瀧口は1953年に出会い、四半世紀に渡って創造的な交流を続け、詩画集『稲妻捕りElements』、『掌中破片』を共作。1979年の瀧口没後、加納は瀧口の存在を意識しながら制作に向き合い、版画に加え、色彩豊かな油彩作品の創作にも力を注いでいる。

●四章立てで約250点を展示

 本展では、第一章「加納光於の版画 詩人との出会い」、第二章「瀧口修造 詩人が描くとき 加納光於とアンリ・ミショーと」、第三章「瀧口修造と加納光於 詩人と画家の交流と創造」、第四章「加納光於 1980年以後ー瀧口修造に沿って」の構成で、加納の初期から近年までの作品とともに、瀧口の作品や二人の交流を示す資料や書簡など、約250点を展示し、強く共鳴し合った二人の精神と創造に光を当てる。


▲銅版画集≪植物≫

 まず、加納の作品をいくつか紹介しよう。最初期の≪植物≫(1954-55年)は、22歳のときに初めて出版した私家版の銅版画集。10代の頃から植物学に傾倒していた加納は、同作において植物の有機的な形態をもとに幻想的なイメージを生み出している。

 ≪星とキルロイが濡れる≫(1957-58年)は、防蝕ニスが剥がれた版の裏面を試しに刷り、偶然生まれたイメージに手を加えて制作された作品。それまでの作品では具体的なイメージを描写していたが、本作以降、実験的な手法を用いて抽象的な作品が生まれることになった。


▲≪アララットの船あるいは空の蜜≫
などの立体作品

 立体作品の≪アララットの船あるいは空の蜜≫(1971年)は、加納と詩人・大岡信が共作した箱状のユニークなオブジェ。内部には、加納の制作ノートや大岡の詩集、独自に制作された部品が収められている。

 石版画集≪稲妻捕り≫(1977年)は、加納が初めてリトグラフ(平版画)に挑戦した作品。1版3色ほどの液を3~4版重ねる高度な技術が必要という。リトグラフでは銅版画のように腐蝕液やニードルで版面を直接加工することなく、石や金属の板に油性の描画材で描いたものが版になり、水と油の反撥作用によって刷る。

 ≪胸壁にて≫-RG(1980年)は1980年に初めて発表した油彩シリーズ。流動性の高い絵具を水平に置いたキャンバス上に流し、透明フィルムを近づけて、その静電気の力で絵具を操るという独自手法から生まれた。


▲37点組の油彩≪海燕のセミオティク≫
(右)などを展示

 タイトルにも使われている最新作≪海燕のセミオティク≫(2018年)は37点組の油彩。海燕は長い翼とツバメのような尾が特徴の黒褐色の水鳥で、加納の美術家としての俊敏さを象徴している。セミオティクは記号論を表し、絵画を言葉によらない独自の言語、記号とする、加納独自の絵画観に基づくと考えられる。作品の前に立つと、鑑賞者は色彩の謎、言語化不可能な知覚体験をすることになるだろう。

 瀧口の作品で注目したいのが、デカルコマニーの代表作、≪私の心臓は時を刻む≫(1962年)全100点。デカルコマニーとは、フランス語で「転写絵」を意味する。紙などに絵具を垂らし、乾かないうちに別の紙などを押し付けて偶発的な模様ができる技法。化学の実験室で生まれたかのような神秘的な影像が鑑賞者の目を強烈に魅きつけるだろう。

●さまざまな角度から作品の魅力を紹介

 12月7日(土)には、林浩平氏(詩人、文芸評論家、日本文学研究者)の講演会「詩人 加納光於ー稲妻捕りの詩学」が行われる。加納の≪稲妻捕り≫シリーズを中心に、詩人の視点から作品を解説する。また、15日(日)には、山口啓介氏(美術家)を迎え、TADアート・レクチャーが開かれる。「作品が生まれるとき」を演題に、テーマや技法選びなど、作品が完成するまでの過程について語る。いずれも当日先着順で事前申込み不要。詳しくは、HPにアクセスを。

 県美術館1Fの「スワロウ カフェ」では、この企画展の期間中、限定デザート「素材の結晶―色遊び。音遊び。温遊び。-」を提供。とろけるフォンダンショコラーパイ包みーなど、スイーツ好きにはたまらないメニューが登場する。

 富山県美術館では、「瀧口修造と加納光於は30歳の年の差ながら四半世紀にわたる創造的な交流を持ちました。共鳴し合った二人の創造の軌跡をご覧ください」と話している。


問合せ
●富山県美術館
TEL.076-431-2711
FAX.076-431-2712
https://tad-toyama.jp/

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