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2012年 5月 9日 [ トピックス ]

No.555-3:立山信仰の儀式「布橋灌頂会」、日本ユネスコ「未来遺産」に登録

かつての立山信仰の拠点、立山町芦峅寺で開催されている「布橋灌頂会(ぬのばしかんじょうえ)」が、公益社団法人日本ユネスコ協会連盟の第3回「プロジェクト未来遺産」に県内で初めて登録された。立山信仰や立山の歴史・自然を学ぶなら、立山山麓・芦峅寺(あしくらじ)に建つ富山県[立山博物館]へ!

▲布橋灌頂会

●“心の癒しの儀式”として現代に

 かつての立山信仰の拠点、立山町芦峅寺で開催されている「布橋灌頂会(ぬのばしかんじょうえ)」が、公益社団法人日本ユネスコ協会連盟の第3回「プロジェクト未来遺産」に県内で初めて登録された。

 布橋灌頂会は、立山が女人禁制だった江戸時代に、極楽往生を願う女性の救済のために営まれた儀式。布橋の下を流れるうば堂川を三途の川に見立て、布橋はこの世(此岸)とあの世(彼岸)の境界と考えられていた。女性たちは白装束をまとい、目隠しをして布橋を渡り、うば堂内で念仏を唱え、再び布橋へ。無事に渡り切ると、死後に極楽浄土に至ることができると信じられていた。明治初期の廃仏毀釈によって儀式は廃れたが、平成8年の国民文化祭で136年ぶりに再現され、その後、平成17年、18年、21年、23年に“心の癒しの儀式”として開催されてきた。

 昨年9月24日に行われた布橋灌頂会では、雅楽の荘厳な音色と聲明(しょうみょう)が響くなか、朱色の橋に敷かれた3本の白い布の上を、白装束に目隠しをした女性たちが橋を渡った。全国から応募のあった70人で、50~60代が中心。荘厳な光景をひと目見ようと、県内外から約3,000人の見物客も集まった。併催の「ごっつぉ祭り」では、郷土料理を味わってほしいと、芦峅寺の婦人会がこごみ、人参、里芋、厚揚げを煮込んだ芦峅名物の“つぼ煮”、もち米とよもぎの大福“やきつけ”などを調理し、提供した。

 「プロジェクト未来遺産」は、日本ユネスコ協会連盟が平成21年から登録を始めた。100年後の子どもたちに、長い歴史と伝統のもとで豊かに培われてきた地域の文化・自然遺産を伝える「未来遺産運動」の主要な柱となる事業だ。毎年10プロジェクトを登録しており、昨年は22都道府県から33件の応募があった。布橋灌頂会は、女性の救済を目指す儀式の独自性や、地域が一体となって伝統の継承を進めている姿勢などが評価された。

 布橋灌頂会実行委員会では、「立山町芦峅寺集落の皆さん、地元高校生らが裏方として頑張って支えてきた心の癒しの儀式。地域の伝統文化をしっかり受け継いでいきたい。3年に1度の開催で、次回は平成26年を予定しています。今年度は、日本ユネスコ協会連盟からの応援金を活用し、立山町の子どもたちに布橋灌頂会の擬似体験や史跡めぐりをしてもらったり、芦峅の伝統料理に触れてもらうなどの取り組みを計画しています」と話している。

●立山信仰の世界を擬似体験、富山県[立山博物館]

 立山信仰とは、平安時代末期から江戸時代にかけて信仰を集めた神仏混こうの山岳信仰。立山には地獄から浄土まで、すべての世界が存在するとされ、登拝することで罪や汚れのない新しい自分に生まれ変われると信じられていた。また、地獄谷で死者を供養すれば、地獄に堕ちた霊も極楽浄土で往生できるとされていた。立山信仰を布教するため、立山山麓の芦峅寺と岩峅寺の衆徒たちは、立山の山岳景観や阿弥陀三尊来迎の様子、立山地獄、布橋灌頂会などを描いた立山曼荼羅を持って全国を回り、立山開山の由来や立山の地獄・極楽の世界などを独特の節回しで絵解きしていった。

 立山信仰や立山の歴史、自然を紹介するのが、立山町芦峅寺に建つ富山県[立山博物館]だ。教界(展示館・教算坊・資料館)、聖界(閻魔堂と石仏群、うば堂基檀、遙望館、布橋)、遊界(まんだら遊苑)の3つのエリアに分かれており、立山信仰について深く学び、楽しめるテーマパークといえる。博物館は、立山町や芦峅寺集落の住民らとともに布橋灌頂会開催を支えてきた。

 博物館の中核施設となっている「展示館」では、立山信仰の舞台となった立山の自然を紹介する第一展示室、立山信仰の世界を紹介する第二展示室などからなる。立山曼荼羅をはじめ、剱岳山頂から出土した平安時代の錫杖頭(しゃくじょうとう)、修行者の装束・道具をはじめ、ブナの森や布橋灌頂会、宿坊界隈の賑わいを再現したジオラマなど見ごたえたっぷりの展示内容となっている。「遙望館」では、立山の自然や信仰をテーマにした映像作品を大型3面(横15m)のマルチスクリーンで上映。終了後にはスクリーンが上がり、前方に実際の立山連峰を望めるように演出されている。

 地界、天界など4つのエリアで構成された「まんだら遊苑」は、立山曼荼羅の世界を造形物や光、音、香りなどで擬似体験できる施設。出発点となる地界はおどろおどろしい地獄の世界をイメージしており、閻魔堂や餓鬼の針山、音で骨まで焼き尽くされる八熱地獄の世界を表現した音触鬼などが点在する。天界には、神仏が住むとされる崇高な山・須弥山をかたどった天界広場や7人のアーティストによる天界窟、楕円形の大きな物体・天の卵宮などがあり、心地よい音、光、香りに満ちている。天界へ続く道として、色とりどりの花が咲く陽の道、想念の世界から再び現実の世界へと導く闇の道もある。

 富山県[立山博物館]では、「立山の歴史と立山信仰、その舞台となった立山の自然を紹介する博物館です。今月26日には、<道者衆の接待>として、立山登拝のために宿泊した道者衆へ振る舞われていた御膳を再現するイベントを開催します。7月28日からの特別企画展<文学にみる立山>、10月6日からの<木版文化と立山>もぜひご観覧ください」と話している。

▲(左)立山曼荼羅を展示する展示館▲(中央)まんだら遊苑の地界▲(右)天界・天至界の天の卵宮


問い合わせ
「布橋灌頂会」について
●布橋灌頂会実行委員会(立山町観光協会内)
TEL.076-462-9971
FAX.076-463-6611
http://kanko.town.tateyama.toyama.jp/pub/top.aspx

「立山信仰」について
●富山県[立山博物館]
TEL.076-481-1216
FAX.076-481-1144
http://www.pref.toyama.jp/branches/3043/3043.htm

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