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2012年 5月 9日 [ トピックス ]
No.555-2:立山に国内初の氷河!!
立山カルデラ砂防博物館が調査を進めてきた、立山連峰の雄山東側斜面にある御前沢(ごぜんざわ)雪渓、剱岳北方稜線の三ノ窓雪渓、小窓雪渓の3雪渓が、国内初の現存する「氷河」であると学術的に認められた。極東地域では氷河の南限がロシアのカムチャツカ半島とされてきたが、今回の結果によって立山が南限となる。
●極東地域での氷河の南限に
立山カルデラ砂防博物館が調査を進めてきた、立山連峰の雄山東側斜面にある御前沢(ごぜんざわ)雪渓、剱岳北方稜線の三ノ窓雪渓、小窓雪渓の3雪渓が、国内初の現存する「氷河」であると学術的に認められた。調査結果をまとめた論文が日本雪氷学会に受理され、正式な学術論文として学会誌『雪氷』(5月号)に掲載される。
調査は2009年から2011年にかけて、3年がかりで行われた。雪渓上での活動は危険と隣り合わせ。滑落すれば、クレバスやムーラン(氷の縦穴)に落ちかねない、命懸けの調査だった。研究が認められたことで、その苦労が実を結んだ。
極東地域では氷河の南限がロシアのカムチャツカ半島とされてきたが、今回の結果によって立山が南限となる。立山には氷河期の生き残りといわれるライチョウが生息する。氷河の存在が認められたことで、新たな魅力が加わったといえる。
氷河とは“重力によって長期間にわたり連続して流動する雪氷体(雪と氷の大きな塊)”<日本雪氷学会編「雪と氷の辞典」、2005年>と定義され、厚い氷体を持つこと、氷体が流動していることをその条件に挙げており、これまで国内では氷河は存在しないと考えられてきた。
氷河の流動の観測については、8月末~10月、ポールの移動量をGPS(衛星利用測位システム)で観測する方法で行われた。まず、アイスドリルで氷体に達するまで穴を開け、ポールを挿入してその位置を高精度のGPSで測定。10月上旬にかけてポールの位置を再度GPSで測定し、流動量を求めた。氷河の厚さの測定については、氷河表面から下向きに電波を飛ばし、岩盤からはね返ってくる電波をとらえて氷の厚さを測定するアイスレーダーを用いた。
標高2,500m~2,800mに位置する御前沢雪渓では、2009年9月にアイスレーダー観測を行い、上流部で長さ約200m、厚さ23m、下流部で長さ約400m、厚さ約27mの氷体を発見した。2010年、2011年秋の高精度GPSによる流動観測では、下流部の氷体が1カ月で約10cm流動していることがわかった。御前沢は、冬には吹き溜まり効果と雪崩によって15~20mの積雪となる。融雪末期の10月には氷河氷が一部露出し、ムーランなど氷河に特有の構造が現れる。雄山山頂に建つ雄山神社社務所前から黒部ダム側を見下ろすと、御前沢雪渓を眺めることができる。
●三ノ窓雪渓は日本最大の氷河
三ノ窓雪渓は標高1,700m~2,400mに位置し、剱岳の三ノ窓尾根と八ッ峰の間の狭くて急な氷食谷を埋めている。2011年6月のアイスレーダー観測により、長さ約1,200m、厚さ40m以上の巨大な氷体をもつことが明らかになり、同年秋の高精度GPSによる流動観測では、氷体が1カ月で最大30cm以上流動していることがわかった。
小窓雪渓は標高2,000m~2,300mに位置し、剱岳の三ノ窓尾根と池ノ平山の南東面の間の狭い氷食谷を埋めている。2011年6月のアイスレーダー観測により、長さ約900m、厚さ30m以上の氷体をもつことが明らかになり、同年秋の高精度GPSによる流動観測では、氷体が1カ月で最大30cm以上流動していることがわかった。三ノ窓雪渓、小窓雪渓ともに、冬には、吹き溜まり効果と雪崩によって20m以上の積雪となる。10月には氷河氷が一部露出し、クレバスやムーランなど氷河に特有の構造が現れる。1年あたりの流動速度は約4mと推定され、ヒマラヤやパタゴニアなどの小型氷河の流動速度に匹敵すると考えられる。
このほか、立山の内蔵助雪渓にも氷河の流動の痕跡が残っている。ムーランの一番底から採取された氷河氷は、約1700年前の日本最古の氷であることがわかっている。
立山カルデラ砂防博物館では、「氷がその重さに耐えかねて流れ始める厚さは約30mといわれ、御前沢、三ノ窓、小窓のいずれも流動するのに十分な厚さがあるといえる。立山は、氷河をもつ世界の山々と比べると、標高が低く、気温も高め。それなのになぜ氷河が存在するのかといえば、降雪量が多く、吹き溜まりや雪崩が発生する急峻な地形も関係していると考えられる。今後は、それぞれの雪渓の氷を採取して氷河の形成年代や、古い環境、気候の変動を明らかにしていきたい。氷は過去の記憶装置となっている」と話している。
問い合わせ
●立山カルデラ砂防博物館
TEL.076-481-1363
FAX.076-482-9101
http://www.tatecal.or.jp/