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2018年 10月 24日 [ トピックス ]
No.879:富山への理解を深める一冊『富山は日本のスウェーデン』、好評発売中
●社会の厚み、質ともいうべき「ゆたかさ」が富山にある
井手氏が本書を出版するきっかけとなったのは、10年以上前、富山駅前で見た朝の通勤時間帯の光景だった。車で仕事に向かう女性が多かったことだ。保守的な土地といえば、女性は家を守るというイメージを持っていたが、「女性が多く働いているのはなぜか」といった疑問を感じた。そこから富山での10年間にわたるフィールドワークが始まった。
調査してみると、女性就業率や正社員で働く女性の割合が高く、保育所の待機児童ゼロ。勤労者世帯の実収入が多く、生活保護を受ける世帯の割合は低い。小中学生の学力は全国トップクラスで、公教育の水準も高い。同じほどの県民人口をもつ他県に比べて、企業売上高は段違い。そして、単なる量的、経済的な「豊かさ」だけでなく、社会の厚み、質ともいうべき「ゆたかさ」が富山にあることに気づいた。「女性の社会進出、働きやすい仕組み、経済の強さなど、北欧型福祉国家の代表・スウェーデンの状況とそっくりだ」と、井手氏は感じたという。
本書のコンセプトは、“「保守が生んだ日本型北欧社会」として富山を捉える”というもの。「北陸は個人よりも共同体の秩序を重視する保守的な土地柄とされ、富山も例外ではない」と井手氏。保守王国の歴史や背景、日本海側屈指の工業集積を誇るものづくり県が生まれた土壌を探り、経済の力強さを取り上げている。確かな経済基盤によって、労働者同士が雇用を分け合う「ワークシェアリング」に近い雇用環境があり、女性の高い就業率、三世代同居による子育て、正社員比率が保たれ、高い世帯所得水準を可能にしていると分析する。
●家族という価値に重きをおく「富山らしさ」
社会民主主義の国・スウェーデンのような状況が富山で生じたのはなぜか。「家族を大事にする価値観」と井手氏は指摘する。「家族」を軸とした社会の組み立て方、「子どものため、富山のため」という発想、家族という価値に重きをおく「富山らしさ」があるという。
一方、スウェーデンでも家族の価値が重視された。1930年代、スウェーデンは出生率の低下や失業率の悪化にあえいでいた。首相に就いたペール・アルビン・ハンソンは国家を「国民の家」とし、家族の中に見出される相互扶助の原理で国を立て直そうとした。
若者の東京一極集中が進み、地方で若い女性たちの流失や三世代同居の減少が顕在化している。富山でもそうだ。「これまでの家族の機能を行政やNPO、企業が補完する仕組みが必要。富山では、子どもから障がい者、高齢者まで一緒にサービスを受けられる“富山型デイサービス”という新しい福祉のサービスが生まれている。そんな動きが自然に出てくるのが富山の強さ」と井手氏。
少子高齢化、人口減少、経済停滞にあえぐ日本にとって、家族の役割をいかに社会化していくべきかが重要。富山とスウェーデンに学ぶことは多いだろう。「人は助け合わなければ生きていけない。住民のニーズをいかに汲み取り、何を守り、何を変えるべきか。“公、共、私のベストミックス” が必要。地域に合わせ、より多様なものになっていくだろう」と、日本と富山の将来を見つめる。
●“すばらしい富山”のデータ満載の「県民手帳」発売!
本日、2019年版が発売されたばかりの「富山県民手帳」には、井手氏の著書でも紹介された富山のすばらしさのデータが満載。資料編として「住みよさ日本一」と題し、持ち家率や、女性有業率などのデータが全国順位とともに掲載されているほか、旬のすしネタや鉄道の路線図、観光マップをはじめ、お出かけに役立つ写真や図表も充実している。「高志の空色」(海越しの立山が映える雨晴の空)と、「富山湾ブルー」(恵み豊かな富山湾の深い青)の2つのバージョンから選べるのもうれしい。(月間予定表の形式がカレンダー式、横罫式と異なる。)県内書店等のほか、県外では日本橋とやま館、いきいき富山館、ロフト(渋谷、銀座、ネットストア)等で入手できる。一度お手にとって、井手氏の著書と併せ、富山のよさを実感してみてはいかが。
■井手英策(いでえいさく)氏
1972年福岡県生まれ。博士(経済学)。慶應義塾大学経済学部教授。東京大学大学院経済学研究科博士課程を単位取得退学し、日本銀行金融研究所に勤務。その後、横浜国立大学などを経て現職。2015年大佛次郎論壇賞、16年慶應義塾賞受賞。富山県行革アドバイザー。
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