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2007年 1月 31日 [ トピックス ]

No.285-1:電離層解明へ、小型ロケット打ち上げ


 富山県立大学は、大気圏上空にある電離層を観測するため、宇宙航空研究開発機構、東海大学などと共同で小型ロケット「S-310-37号機」を打ち上げ、予定の観測に成功した。今回の打ち上げは冬場に電離層で発生する高温度層の発生メカニズムを解明するのが目的。県立大学電磁波工学研究室では、世界初の小型アンテナ6本を装備した電場計測器の開発を担当した。

▲写真提供:JAXA・富山県立大学

●小型アンテナ6本を装備した電場計測器を搭載

 1月16日11時20分、鹿児島県肝付町にある内之浦宇宙空間観測所。天候は晴れ。地上風は南南東1.5m/秒。気温17度。全長7.8mの小型ロケット「S-310-37号機」が橙色の炎を噴射しながら大空に向かって上昇。発射後184秒で最高高度138kmに達し、すべての観測を終えたのち、内之浦南東の太平洋上に落下した−−。

 富山県立大学は、大気圏上空にある電離層を観測するため、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東海大学などと共同で小型ロケット「S-310-37号機」を打ち上げ、予定の観測に成功した。今回の打ち上げは冬場に電離層で発生する高温度層の発生メカニズムを解明するためのもので、搭載された電子エネルギー分布測定器、電場計測器、磁場計測器、太陽センサー、地平線センサーなど8種類の装置はすべて正常に作動した。

 電離層とは、太陽からの紫外線やX線によって、大気の原子や分子が電子とイオンに分離している層で、電波を反射させる性質をもっている。高度約60km、70kmから数百kmにわたって地球を取り巻いており、冬場の電離層では、氷点下50度ほどの大気温度がプラズマによって局所的に高温度(数百度)に上昇する現象が起こり、テレビやラジオの電波障害を引き起こす原因とされている。この日は、高度99〜101kmに高温度層の存在が確認された。

 共同研究に参加している県立大学工学部電磁波工学研究室(代表:岡田敏美教授)では、岡田教授、石坂圭吾助手、大学院博士後期課程の芦原佑樹さんの研究チームが、世界初の小型アンテナ6本を装備した電場計測器の開発を担当。ロケット発射60秒後にアンテナを広げることに成功し、熊本市から送信されてくるラジオ中波を受信。世界で初めて三次元的に電場(電荷の周りに存在する力の場、電界)の観測に成功した。電磁波工学研究室では、データの解析を進め、今春に研究成果を発表する予定。衛星通信や衛星利用測位システム(GPS)などの精度向上につながる研究として期待されている。

●地方大学発の独自技術で電離層解明に挑戦

 電磁波工学研究室では、電磁波を利用して情報通信技術や宇宙機用電界観測装置などの開発に取り組んでいる。2002年と2005年には米国・アラスカ大学フェアバンクス校主催の「学生ロケットプログラム」に参加。観測用ロケットに搭載した自作の電波受信機で放送電波などの波形を観測し、電離層の位置や電波反射のメカニズムなどを調べてきた。これまでの研究や観測機器開発への取り組みが、今回のプロジェクトに生かされたことはいうまでもないことだ。

 電磁波工学研究室では、今夏に再度打ち上げられる電離層観測用の小型ロケット、日本初の月探査機「セレーネ」のほか、2012年にヨーロッパや日本などが共同で打ち上げる水星探査機「Bepicolombo」などのプロジェクトにも参加し、搭載する測定器などの研究開発を進めている。

 電磁波工学研究室の石坂圭吾助手は「今回のロケット打ち上げでは電離層の貴重なデータが収集できた。解析を進め、通信の安定的な運用などに役立つことにつながればうれしい。地方の大学にありながら、計測機器を独自に開発して宇宙の現象を観測する研究に携わることができるのがこの研究室の魅力だ。水星探査機など国際的なプロジェクトでも貢献できるように研究に取り組んでいきたい。」と話している。


▲写真提供:JAXA・富山県立大学


問い合わせ
●富山県立大学工学部 電磁波工学研究室
TEL.0766-56-7500
FAX.0766-56-8027
http://www.pu-toyama.ac.jp/

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