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2008年 10月 22日 [ トピックス ]

No.375-1:ピロリ菌など病原微生物の呼吸構造、解明


 富山県立大学工学部生物工学科の大利徹准教授らの研究グループは、胃がんや胃潰瘍などを引き起こすピロリ菌などの病原微生物が、腸内の善玉菌である乳酸菌などの有用菌とは異なる仕組みでそれぞれの呼吸に必要なビタミンK2(メナキノン)をつくることを発見し、アメリカの科学誌『Sciense(サイエンス)』(9/19号)に発表した。新薬開発の期待が高まっている。

●ゲノム解析で、呼吸に必要なビタミンK2生成の仕組みを

 富山県立大学の大利徹(だいりとおる)准教授<工学部生物工学科応用生物プロセス学講座>らの研究グループは、胃がんや胃潰瘍などを引き起こすピロリ菌、食中毒の原因菌となるカンピロバクター菌、性病菌として知られるクラミジア菌などの病原微生物が、腸内の善玉菌である乳酸菌などの有用菌とは異なる仕組みでそれぞれの呼吸に必要なビタミンK2(メナキノン)をつくることを発見し、アメリカの科学誌『Sciense(サイエンス)』(9/19号)に発表した。

 ビタミンK2とは、ピロリ菌や乳酸菌などの微生物にとってはブドウ糖をエネルギーに変える際に中心的な役割を果たす物質。人体にとっては血液凝固や動脈硬化、骨粗しょう症の予防に関係する。

 元々、微生物がつくる化合物に興味があった大利准教授は、多種多様な抗生物質をつくる放線菌のゲノム(遺伝子情報)を解析したところ、ビタミンK2を合成する際に材料となるスクシニル安息香酸をつくる遺伝子群が見つからないことに気づいた。そこでビタミンK2をつくる既知の経路の遺伝子(コリスミ酸から、イソコリスミ酸、スクシニル安息香酸、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸へと順次変換する遺伝子)が解明されている菌(大腸菌、結核菌など)と、放線菌のほか、ピロリ菌、カンピロバクター菌など既知のビタミンK2遺伝子を持たない菌のグループを比較した結果、後者の菌のグループから、大腸菌などにはない4つの遺伝子(コリスミ酸から、フタロシン、デヒポキサンチンフタロシン、サイクリックデヒポキサンチンフタロシン、1,4-ジヒドロキシ-6-ナフトエ酸へと順次変換する遺伝子)を発見。これらがビタミンK2をつくっていることがわかった。いずれの菌のグループもコリスミ酸という原料から出発しながら、異なる遺伝子群によって、最終的に同じビタミンK2をつくるという仕組みの全容を解明したというわけだ。

●新しいピロリ菌除去治療薬に期待

 新たに発見されたビタミンK2の生成の仕組み。この仕組みを阻害する薬を開発すれば、人の細胞や有用な微生物に影響を与えず、有害な病原微生物のみを抑える新しい治療方法が可能になる。

 たとえば、日本人の40代以上の7割以上が持っているとされるピロリ菌。現在、使用されているピロリ菌除去治療薬は、乳酸菌など腸内の善玉菌も一緒に除去するため、下痢や腹痛などの副作用がある。ピロリ菌のビタミンK2生成だけを抑制することができれば、ピロリ菌だけを死滅させることが可能となる。副作用の少ない新薬開発の期待が高まっている。

 大利准教授は「新たに発見した4つの遺伝子のうち、2つの遺伝子からできるたんぱく質については3次元構造がわかっており、これらを標的とした新薬開発の可能性が考えられる。富山県立大学オリジナルの研究成果が評価され、世界で最も権威のある科学誌の1つ『サイエンス』に掲載されたことは大変に喜ばしいことだ。今後、アメリカ・コーネル大学と共同研究することが決まり、これまで私の研究を手伝ってくれた大学院生が留学することになった。若い研究者の育成も図っていきたい」と話している。



問い合わせ
●富山県立大学工学部生物工学科応用生物プロセス学講座
TEL.0766-56-7500
FAX.0766-56-2498
http://www.pu-toyama.ac.jp/

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