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2010年 12月 15日 [ トピックス ]

No.485-1:国内初、立山に氷河の可能性! 御前沢雪渓の氷体


 立山カルデラ砂防博物館は、立山の主峰・雄山(3,003m)の東側、御前沢の雪渓にある国内最大級の氷体について、「氷河である可能性が高い」とする調査結果を国立極地研究所(東京)で開催された「極域気水圏シンポジウム」で発表した。

▲御前沢雪渓の全景
(立山カルデラ砂防博物館提供)

●雄山の東側斜面に最大約30mの厚さの氷体

 立山カルデラ砂防博物館は、立山の主峰・雄山(3,003m)の東側、御前沢(ごぜんざわ)雪渓にある国内最大級の氷体について、「氷河である可能性が高い」とする調査結果を国立極地研究所(東京)で開催された「極域気水圏シンポジウム」(11月30日)で発表した。

 日本雪氷学会では、氷河を“重力によって長期間にわたり連続して流動する雪氷体(雪と氷の大きな塊)”と定義。厚い氷体を持つこと、氷体が流動していることをその条件に挙げており、これまで国内では氷河は存在しないと考えられてきた。御前沢雪渓の氷体を氷河と確定するには、今後長期間(1年以上)の観測が必要だが、確定されれば、国内初の発見となる。

 標高2,500~2,800mに位置する御前沢雪渓は、日本最大級の万年雪の1つ。氷体は長さ約700m、幅約200m、厚さ約30mの規模で、同博物館の昨秋の調査で存在を突き止めた。雄山山頂に建つ雄山神社社務所前から黒部ダム方向を見下ろすと、雪渓を眺めることができるが、国立公園内のため、特別な許可がないと雪渓に入ることはできない。

 今年の調査は8月末~10月上旬、ポールの移動量の観測(11地点)とGPS連続観測(1地点)の2つの方法で行われた。ポールの移動量の観測では、まず、アイスドリルで氷体に達するまで穴を開け、ポールを挿入してその位置を高精度のGPS(衛星利用測位システム)で測量。9月下旬~10月上旬にかけてポールの位置を再度GPSで測量したところ、下部氷体では約1カ月で下流方向に6~30cm流動したことがわかった。一方、GPS連続観測では、10月上旬に氷体が露出している地点にデータを自動的に記録する2周波GPSを設置。位置の変化を連続記録し、氷体の動きをモニターしたところ、下部氷体の中央部で東の方向に5日間で3.2cmの流動を観測した。

●立山の内蔵助雪渓、剱岳の小窓雪渓などにも氷河の可能性

 氷河流動の特性を探るためには長期間の観測が必要であるため、立山カルデラ砂防博物館では、今後も流動観測を継続する。さらに、立山の内蔵助雪渓、剱岳の小窓雪渓、三ノ窓雪渓にも氷河が存在する可能性があることから氷体の厚さを測るアイスレーダ観測と流動観測を実施。また、御前沢雪渓の氷体から氷を採取して氷河の形成年代や、過去の環境を明らかにする予定だ。

 調査にあたっている福井幸太郎学芸員は、2003~09年、国立極地研究所に研究員として勤務。2006~08年には第48次日本南極地域観測隊(越冬隊)に参加し、2009年4月に立山カルデラ砂防博物館へ。昨年の調査では、アイスレーダ観測とGPS測量から氷体の長さや幅、厚さ、構造などを突き止めた。福井学芸員は、「今年は短期間の調査だったが、流動が観測されたことから氷河の可能性がきわめて高いという結果を得た。現在よりも気温の低かった江戸時代ぐらいまで、御前沢雪渓は今よりも大きな規模であったことが文献などから推測できる。その後、縮小しつつもかろうじて氷河として流動しているものと思われる。今後も継続して調査し、データを積み重ねていきたい」と話している。

 福井学芸員とともに調査にあたっている飯田肇学芸課長は、「以前から氷河の可能性を探ってきたが、急峻な山岳地にあるため、調査が思うように行えなかった。南極やネパール・ヒマラヤなどでの観測経験が豊富な福井学芸員の着任やアイスドリル・観測機器の小型・軽量化などによって調査が飛躍的に進んだ。氷河となれば、世界一暖かい場所にあることになる。世界の氷河は温暖化の影響を受けて危機的な状況だ。立山の自然環境の特徴や魅力を発信したい。調査には、映画“劔岳 点の記”の撮影に参加した立山ガイドのメンバーも協力してくれた。彼らに感謝したい」と話している。


▲ポールを担いで急斜面を下りる
(立山カルデラ砂防博物館提供)


問い合わせ
●立山カルデラ砂防博物館
TEL.076-481-1363
FAX.076-482-9101
http://www.tatecal.or.jp/

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