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2007年 7月 4日 [ トピックス ]
No.307-1:電離層の構造と電波時計用電波の伝搬特性の解明へ、ロケット打ち上げ
富山県立大学工学部電磁波工学研究室(代表・岡田敏美情報システム工学科教授)は、2008年2月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東京大学、東北大学などと共同で、電離層の観測とともに電波時計用電波の伝搬特性(電波の伝わり方の特性)を解明するため、鹿児島県肝付町にある内之浦宇宙空間観測所から実験用ロケットを打ち上げる。
●電離層で電波キャッチに取り組む
電磁波を利用して情報通信技術や宇宙機用電界観測装置などの研究・開発に取り組んでいる富山県立大学工学部電磁波工学研究室(代表・岡田敏美情報システム工学科教授)。2008年2月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東京大学、東北大学などと共同で、電離層の観測とともに電波時計用電波の伝搬特性(電波の伝わり方の特性)を解明するため、鹿児島県肝付町にある内之浦宇宙空間観測所から実験用ロケットを打ち上げる。
電波時計は、福島県の大鷹鳥谷山と佐賀県の羽金山に設けられた標準電波送信所から出されている電波を、時計に内蔵された超高性能アンテナで受信し、時刻を自動的に調整する時計(市販品は数千円のものから高性能なものまでいろいろ)。高い精度を誇るが、受信時に日本標準時と100分の3秒〜5秒程度の誤差が生じることがある。
実験では、この誤差のメカニズム解明に取り組む。誤差の要因として雷や人工の電子機器から発生する雑音電波のほかに、電離層の影響も考えられる。後者に関しては、送信所と遠く離れた場所では地上波の電波が届きにくくなり、地球の上空約60kmから数百kmを取り巻く電離層と呼ばれる層に送信所からの電波が反射して伝わるために起きるとされている。ただし、実際に電離層でこの電波は測定されたことがなく、メカニズムははっきりとわかっていない。電離層とは、太陽からの強い紫外線やX線により、大気の原子や分子が電子とイオンに分離している層で、低い方からD層、E層、F層と呼ばれ、電波を反射させる性質をもっている。電離層では局所的に電子密度が著しく高くなり、また、高温度(数百度)に上昇する現象が発生しており、テレビやラジオの電波障害を引き起こす原因とされている。
●国家的な大型プロジェクトにも参画
実験では、電波時計の電波が地上から電離層にどのように伝わっているか、伝搬特性(電波の伝わり方の特性)などの基礎データを収集する。電波時計の誤差解明によって、地震計からのデータ送信技術など、幅広い分野に応用できる可能性があると、電磁波工学研究室では期待を寄せている。岡田教授は、「電離層の観測のため、これまでの実験ではラジオ中波などの電波をロケットに搭載したアンテナと機器で受信してきた。受信する電波として、今回の実験では、中波電波とは電離層の影響の異なる電波時計の電波(長波)に注目した。得られるデータから誤差のメカニズム解明につなげていきたい。また、電離層や電波反射の仕組みなどを探る研究は、衛星通信や衛星利用測位システム(GPS)の精度向上、テレビ・ラジオ電波の安定的な運用などにつながる」と話している。
電離層の観測など、県立大学電磁波工学研究室の技術は国内外で高く評価されており、今夏7月31日に打ち上げ予定の電離層観測用の小型ロケット、8月16日に打ち上げ予定の日本初の大型月探査機「かぐや(セレーネ)」、2012年にヨーロッパや日本などが共同で打ち上げる水星探査機「Bepicolombo」などのプロジェクトにも参画。搭載する観測機器の研究開発に関わっている。今夏、国際的にも注目されている「かぐや」では、主衛星に搭載される宇宙空間用電波測定器の設計に携わっており、月の周囲のプラズマや電磁波環境について調査し、電離層が存在するかどうかについての知見も得られる可能性がある。「かぐや」は、米国・アポロ計画以来の本格的な月探査を行う月周回衛星で、打ち上げ後、約1年間にわたり、月の上空100kmの軌道を飛行し、月の起源や進化の解明、将来の月の利用のためのさまざまな観測を行う。県立大学が設計に関わった測定器がどのようなデータを送ってくれるか、関係者の期待も高まっている。
問い合わせ
●富山県立大学工学部 電磁波工学研究室
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