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2006年 12月 20日 [ トピックス ]
No.279-1:富山湾の海洋深層水を活用し、サクラマスを増殖
富山名物・ますの寿しの原料に使われるサクラマス(サケ科)は、河川環境の悪化などによって激減。富山県版のレッドデータブック(リスト)の希少種に指定されている。富山県水産試験場では、この状況を踏まえ、平成7年から富山湾の海洋深層水を活用したサクラマスの増殖に取り組んでいる。今年は目標の100万粒を初めて超え、約112万粒の採卵に成功した。
●今秋、112万粒もの採卵に初めて成功
富山名物・ますの寿しの原料に使われるサクラマス(サケ科)。富山県の中央部を流れる神通川は支流が多く、サクラマスの生育に適した豊かな河川。明治時代には年間160tもの漁獲量があったほどで古くから全国有数の漁場として知られている。しかし、河川改修、堰堤の建設など、河川環境の悪化などによって激減。富山県版のレッドデータブック(リスト)の希少種に指定されている。平成12年以降の神通川の漁獲量は1t台が続き、今年は過去最低の0.2〜0.3tとなる見込み。ただ、河川環境の悪化によるサクラマスの激減は神通川だけに見られるものではなく、全国的な傾向だ。
このような状況を踏まえ、富山県水産試験場では、平成7年から富山湾の海洋深層水を活用したサクラマスの増殖に取り組んでいる。その取り組みとは、海洋深層水(水温約2〜3度)と地下水(水温約17度)との熱交換で調温された飼育水を使って河川と海に近い生育環境を陸上水槽に再現し、サクラマスを発眼卵から親魚まで人工飼育すること。海洋深層水とは、水深300m以深に存在する海水。1年を通じて水温が2〜3度と安定。富栄養性、清浄性といった点にも特徴があり、サクラマスの飼育に適している。
採卵用親魚は当初200〜300尾しか飼育できなかったが、技術の向上により、平成13年以降は500尾ほどの飼育が可能となった。また、親魚からの採卵数も当初20〜30万粒だったが、平成13年には約92万粒にもなるなどの成果をあげてきた。ここ数年は40〜70万粒だったが、今年は水槽に入れる親魚の密度を高めたことや、水量調整など管理を徹底し親魚の病気を防ぐことができたことなどから、年間目標の100万粒を超える約112万粒の採卵につながった。人工飼育した親魚から得られた卵は、神通川、庄川、黒部川の各漁業協同組合へ供給され、種苗放流の安定に役立つことになる。
●サクラマスを育む豊かな河川、神通川
県水産試験場では、人工飼育した親魚からの採卵のほか、母川として神通川を遡上する天然のサクラマスからも採卵を行っており、この発眼卵は12月に入り順次ふ化している。体長は2cmほどで、体の腹部にある橙色の嚢が印象的だ。この後、サクラマスの親魚として、深層水を活用した水槽で3年かけて育てる。
渡辺孝之研究員は「卵からふ化する様子はまさに感動的で、生命の神秘を感じます。大切に育てていきたいですね。深層水を活用した技術をより高め、サクラマスの資源回復につなげていきたい。」と話している。
ところで、サクラマスの自然の生態はどうなっているのだろう。ふ化後に河川で約1年半を過ごしたあと、春に海へ下る。1年を海で過ごし、翌春に母川に戻って遡上。秋に産卵して3年間の一生を終える。遡上時には全身が銀白色で、産卵期の秋には桜色になる。海の生活ではオホーツク海まで北上し、北海道の道南あたりで越冬するとされる。海へ下ったときの体重が約30gで、1年後には約3kgと100倍にも成長して川に帰ってくる。
県水産試験場の田子泰彦博士は「多くの魚を育む豊饒の海の神秘を感じずにはいられません。神通川については、漁獲量が減ったとはいえ、富山市という都市の近郊を流れる川でありながら、サクラマス漁がこれまで存続してきた素晴らしい川。平成16年の台風23号による豪雨で今年親魚に成長しているはずのサクラマスが大きな被害をうけたため、今年は過去最低の漁獲量となったようです。今後、川での淵の復元や支流域での魚道の設置など、生息環境の整備に取り組み、生存率を高めていきたい。」と話している。
問い合わせ
●富山県水産試験場
TEL.076-475-0036
FAX.076-475-8116
http://www.pref.toyama.jp/branches/1690/1690.htm