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2013年 11月 20日 [ イベント ]
No.633-1:棟方の装画本、板画展示―文学や民藝からの影響探る
●「児童文学の挿絵」から「戦後の装画本」まで
棟方志巧は多くの作家と交流し、装画や挿絵を手掛けた。「装画本からみる文学とのかかわり」のコーナーでは、棟方の装画本収集家、山本正敏さん(射水市)のコレクションから約300点を、「児童文学の挿絵」から「戦後の装画本」まで16テーマに分けて時系列に展示している。
棟方が最初に手掛けた挿絵は、詩人で児童文学者の佐藤一英が主宰していた雑誌「児童文学」だった。早逝した宮澤賢治との直接的な出会いはなかったが、「児童文学」第2号の作品「グスコーブドリの傳記」や、童話集「四又の百合」に挿絵、見返しに板画「雨ニモマケズ」を寄せるなど、宮澤への傾倒を見てとることができる。新美南吉の「おぢいさんのランプ」の装画も素朴で優しい色合いだ。
その後、太宰治などが参加した機関誌「日本浪漫派」の主宰者、保田與重郎と交流を重ね、小説などの装画を描き始める。富山ゆかりの小説「天の夕顔」で著名な中河与一の「美貌」、「愛の約束」、主宰していた雑誌「文藝世紀」の装画なども手掛けている。
戦後、最初に刊行された装画本は谷崎潤一郎の「痴人の愛」。表紙の不動明王が睨みを利かせている。村松梢風の「女経」、今東光の「悪妻」、「悪太郎」、大佛次郎の「鞍馬天狗」、山崎豊子の「花のれん」、「女系家族」などの装画本も見られる。
「郷土作家の装画本」では、岩倉政治の「龍樹」、岡部文夫の「風」などの装画本が並ぶ。棟方は「辛夷(こぶし)」、「文學國土」、「東雲(しののめ)」、「吊柿(つるしがき/つりがき)」、「医王」、「かたかご」など県内の文芸雑誌の装画も手掛けている。棟方が県内の文壇、作家といかに親しく付き合っていたかがわかる。
●「立山連峰を望む海岸風景」に立山への強い思い
「棟方志巧と民藝運動」のコーナーでは、棟方の出世作となった板画「大和し美し(やまとしうるわし)」などが並ぶ。佐藤一英の詩を彫り上げたもので、古事記に語られる大和武尊(やまとたける)の一代記を表している。民藝運動を進める柳宗悦は当時建設中だった日本民藝館のためにこの作品を買い上げた。この出会いによって、柳宗悦、濱田庄司、河井寛次郎ら民藝の名匠たちとの交流が始まる。棟方は、彼らから宗教的な影響を受けたことで、創作意欲は極度に高まり、板画作品を次々に生み出していった。
板画「善知鳥版画巻(うとうはんがかん)」は、棟方の出身地青森と富山の霊峰立山を舞台にした謡曲「善知鳥」を題材にした作品。救われることのない北国猟師の悲哀を白黒の独特の表現で、29場31柵の版画巻に描き上げている。その隣には、富山湾に浮かぶ立山連峰を描いた油彩画「立山連峰を望む海岸風景」が並ぶ。棟方は戦時疎開のため、昭和20年4月から26年11月までの6年8カ月を富山県福光町(現、南砺市)で過ごした。なぜ出身地の青森ではなく、富山に疎開したのか。民藝運動が盛んだった富山に関心を持ったからとされるが、善知鳥の舞台・立山に強い思いを持っていたからではないかともいわれている。油彩画を眺めていると、立山への憧憬が感じられる。
このほか、佐藤一英の詩「空海頌(そらうみのたたえ)」に自然の草木や花、鳥などを描いた板画「空海頌(そらうみのたたえ)」、文殊・普賢の二菩薩と、釈迦の10人の高弟の姿を彫った板画「二菩薩釈迦十大弟子」(六曲一双屏風)、福光の風土と伝説に着想を得た板画「瞞着川版画巻(だましがわはんがかん)」、吉井勇の歌を大きな声で歌いながら仕上げたといわれる板画「流離抄板画巻(りゅうりしょうはんがかん)」などの作品も並ぶ。
高志の国文学館では、「“世界のムナカタ”と称されるまでに至った棟方の作品には激しいまでの生命力が漲り、見る者の魂を揺さぶる。棟方の板業の根底には、文学を愛する心があったことは疑いない。文学や民藝的思想にどのように感応し、成立していったのか、新たな視点で作品を鑑賞してほしい。文学館の入り口には、土門拳が撮影した棟方の写真も展示している」と話している。
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- ●高志の国文学館
TEL.076-431-5492
FAX.076-431-5490
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