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2012年 9月 26日 [ トピックス ]

No.574-1:野生生物の保護へ、『レッドデータブックとやま2012』刊行

富山県は『富山県の絶滅のおそれのある野生生物 レッドデータブックとやま2012』を刊行した。動物382種、植物517種、計899種を絶滅もしくは絶滅のおそれのある野生生物として選定。富山県刊行物センター(富山県民会館1階ロビー内)で販売中。植物調査を取りまとめた県中央植物園(富山市婦中町)では、特別展「富山県の絶滅危惧植物」を開催。身近な植物50種をピックアップし、パネルや実物で紹介している<11月21日(水)まで>。

▲『レッドデータブックとやま2012』に掲載されている野生生物

●身近な動植物、激減の実態を知る!

 富山県は『富山県の絶滅のおそれのある野生生物 レッドデータブックとやま2012』を刊行した。平成14年に初版が発刊されてから10年近くが経過。希少動植物の分布や生息・生育環境などが大きく変化したことから、絶滅のおそれのある野生生物の現状を把握するため、県などが22~23年に見直し調査を実施し、初版を改訂した。今後、野生生物の保護対策を進めるための基礎資料とする。

 動物は哺乳類、鳥類、爬虫類・両生類、淡水魚類、昆虫類、軟体動物、甲殻類について382種、植物は維管束植物、蘇苔類、地衣類、菌類について517種、合わせて899種を絶滅もしくは絶滅のおそれのある野生生物として選定。絶滅+野生絶滅、絶滅危惧Ⅰ類、絶滅危惧Ⅱ類、準絶滅危惧、情報不足と5つのカテゴリーに分けた。選定した種の数は、初版の651種より248種増加した。増加した理由として、県内の希少な野生動植物の生息・生育環境が悪化していることや、新たに評価対象の分類群(甲殻類、蘇苔類、地衣類、菌類)が追加されたこと、前回は文献調査が主だったが、今回は現地調査も行い、調査精度を上げたことなどが挙げられている。

 絶滅のおそれのある日本の野生生物をとりまとめたものとしては、環境省のレッドデータブック(リスト)がある。これは全国を対象としたものであるため、かならずしも地域の現状にそぐわない場合もある。そこで富山県の実情に即した県版レッドデータブックを作成した経緯がある。

 注目の種を紹介すると、県内で今回新たに絶滅が確認された種は18種。「ミズゴマツボ」(淡水産貝類)は日本固有種。殻高4mmの微小貝で、楕円卵型の比較的厚い殻を持つ。「イトヨ日本海型」(淡水魚類)は体長8cmほどの小さな魚。背中に3本、腹びれに1対の長い棘がある。かつては県内全域の河川下流域などで確認されたが、河川改修などによって産卵場所や稚魚の生育場所が消失した。

 日本固有種の「イタセンパラ」(淡水魚類)は絶滅危惧Ⅰ類に選定されている。全長が10cmを超えるタナゴで、産卵期にはオスの体にピンク色の婚姻色があらわれる。淀川水系、濃尾平野、富山平野の3地域に限定分布し、富山県内では氷見市十二町潟周辺の河川に生息するが、生息範囲が著しく小さく、絶滅が危惧されている。

 富山の県鳥で、国の特別天然記念物の「ライチョウ」(鳥類)は、絶滅危惧Ⅰ類に選定。環境省のレッドリストでも絶滅危惧ⅠB類に選定されており、環境省が種の保存法に基づく保護増殖事業計画を策定することが決まっている。県内では北アルプスの朝日岳周辺から県境の三俣蓮華岳までの高山帯、亜高山帯に分布し、主な生息地20山岳には1,281羽、そのなかの立山一帯では昨年284羽が確認されている。富山市ファミリパークでは、飼育・繁殖技術の確立のため、同じ種のなかの一亜種で日本のライチョウと生態が似ているスバールバルライチョウの研究を進めており、今夏、産卵から抱卵、ひなの子育てまでを親鳥が行う「自然繁殖」で国内初となるふ化に成功するなど、着実に成果を挙げている。

 富山県生活環境文化部自然保護課では、「今回新たに選定された種の中では、人に身近な種も多い。トノサマガエル(両生類)は水田を代表するカエルだが、宅地化による水田や畦の減少、用水のコンクリート化によって平野部の生息数は激減しており、準絶滅危惧に選定された。アカトンボとして親しまれているアキアカネ(昆虫類)も近年個体数が激減。水田の農薬による影響に注意する必要がある」と話している。

●11月21日まで特別展「富山県の絶滅危惧植物」開催

 『レッドデータブックとやま2012』のなかで植物調査を取りまとめた県中央植物園(富山市婦中町)では、特別展「富山県の絶滅危惧植物」を開催している。維管束植物では、新たな生育地の発見などによって、83種が絶滅危惧種のリストから外れた一方、新たに146種が加わり、計439種が選定された。特別展では、その中から人の生活に身近で、馴染みのある植物50種をピックアップし、パネルで紹介。そのうち「エッチュウミセバヤ」、「ミズアオイ」など7種を実物展示している。

 青紫色の花が美しい「オオバクサフジ」(マメ科)は絶滅+野生絶滅に選定。標本で確認できるものは昭和14年にされた1点のみで、少なくとも過去30年間にはまったく生育が確認されていない。海岸の砂地に生育するハマベノギク(キク科)は富山県が分布の北限で、平成12年頃まで生育していたが、海岸整備によって生育適地が失われ、絶滅した。

 絶滅危惧Ⅱ類に選定された「エッチュウミセバヤ」(ベンケイソウ科)は、長さ1.5~3cmの丸い肉厚の葉を持ち、10月頃に淡赤紫色の花を咲かせる。富山県の固有植物で、生存への圧迫要因としては、開発や乱獲などが挙げられる。準絶滅危惧に選定された「ミズアオイ」(ミズアオイ科)は、深緑色の葉に紫色の花が印象的。水田の乾田化や用水路の改修で生育環境が狭められ、生育個体数も限られている。池などに浮遊する「ノタヌキモ」(タヌキモ科)は絶滅危惧Ⅰ類に選定。水中葉に多数の捕中嚢をつける食虫植物で、マニアによる乱獲、水質汚染などによって絶滅するおそれがある。

 富山県中央植物園では、「レッドデータブックでは、富山県希少植物研究会を中心に生育調査を行った。豊かな自然に恵まれた富山でも今回掲載されたような種の絶滅が危惧されている。特別展を通じて、希少植物に関心を持ってもらい、新たな生育地の情報などを寄せていただければ幸いだ」と話している。

 なお、『富山県の絶滅のおそれのある野生生物 レッドデータブックとやま2012』は、富山県刊行物センター(富山県民会館1階ロビー内)で販売中。税込みで1冊3,340円。送料別途で、郵送も可能となっており、希望の方は、同センターへ(TEL.076-432-3111)。


▲特別展「富山県の絶滅危惧植物」(左)▲ミズアオイ(右)
問い合わせ
『富山県の絶滅のおそれのある野生生物 レッドデータブックとやま2012』について
●富山県生活環境文化部自然保護課
TEL.076-444-3397
FAX.076-444-4430
http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1709/
特別展「富山県の絶滅危惧植物」について
●富山県中央植物園
TEL.076-466-4187
FAX.076-465-5923
http://www.bgtym.org/

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