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2010年 12月 22日 [ トピックス ]

No.486-1:倒伏に強く、かつ籾数を多くする遺伝子発見、コシヒカリの新しい系統


 富山県農林水産総合技術センター農業研究所は、東京農工大学、名古屋大学、(独)農業生物資源研究所との共同研究で、1つの遺伝子によって茎を太く、かつ籾数を多くする2つの働きを持つイネ遺伝子を発見した。風雨によっても倒伏しにくく、収穫量の多い品種の改良につながるもので、12月1日付の英科学雑誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」(電子版)で発表した。


●茎の外径16%、収量約10%アップ

 富山県農林水産総合技術センター農業研究所は、東京農工大学、名古屋大学、(独)農業生物資源研究所との共同研究で、1つの遺伝子によって茎を太く、かつ籾数を多くする2つの働きを持つイネ遺伝子を発見した。風雨によっても倒伏しにくく、収穫量の多い品種の改良につながるもので、12月1日付の英科学雑誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」(電子版)で発表した。

 日本の代表的なイネ品種で、県主力品種の「コシヒカリ」は茎が細いため、登熟期間中の風雨によって倒伏し、収量低下や品質低下を招きやすい。研究チームは、茎が太く、収量の多いインディカ種「ハバタキ」に着目し、研究過程で、茎の内壁を厚くする第1染色体の遺伝子と、茎を太くする第6染色体の遺伝子を発見した。第6染色体の遺伝子「SCM2」に絞って研究を進めた結果、この遺伝子が細胞分裂を活性化させることから、1つの遺伝子だけで茎を太く、かつ籾数を多くする働きをすることが分かった。

 研究チームでは、ハバタキとコシヒカリを交配させ、さらにコシヒカリを5回交配させ、遺伝子「SCM2」をもち、コシヒカリに近い系統(約99.9%がコシヒカリの遺伝背景)を育成した。その結果、コシヒカリに比べ、茎の外径が16%、断面積が35%太く、さらに籾数も増えたことで1ha当たりの収量は7.7tから8.4tと約10%増えた。東京農工大学の水田では、昨年の台風でコシヒカリは倒伏したが、新系統は倒れず、雨風に強いことが立証された。

●21世紀の食料増産につながるイネ品種の開発に道

 稲作では、風雨などで倒伏させないことが、高品質と多収量につながる。このため、国内の水稲の品種改良では背丈を短くする研究がこれまで盛んに行われてきた。しかし、収量増や稲わらなどのバイオマスの拡大には短い草丈は適さないため、国の新農業展開ゲノムプロジェクトの一環として、研究チームでは、茎を太くし、耐倒伏性を高める研究を進めてきた。

 農業研究所は、平成18年から共同で研究に参加し、交配・選抜や特性・収量調査などを主に担当してきた。今後は、新系統に高温耐性や直播の適性、病害虫への抵抗性などを付与し、より優れた品種の育成につなげる考えだ。

 富山県農林水産総合技術センター農業研究所は、「遺伝子組換えの技術で誕生したのではないことを強調したい。新系統は、倒伏に強く、収量もアップした。食味もコシヒカリと変わらず美味しい。ただ、高温に強くないなど、改良すべき点がある。交配の材料として活用していきたい。今年度中に品種登録出願を予定している。21世紀の食料増産につながるイネ品種の開発が期待できる」と話している。


▲倒伏の様子(平成21年)
コシヒカリ(左)/新系統(右) (東京農工大学提供)


▲穂の写真
コシヒカリ(左)/新系統(右) (名古屋大学提供)


問い合わせ
●富山県農林水産総合技術センター農業研究所 育種課
TEL.076-429-2111
FAX.076-429-2701
http://www.pref.toyama.jp/branches/1661/

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