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2005年 2月 23日 [ トピックス ]

No.184-1:世界初のリンパ球チップの研究成果を生かすバイオベンチャー企業誕生


●世界初の技術が、いよいよ実用化へ

 INTでは、記事No.135(2004.2.11)『世界初の技術を盛り込んだ「細胞チップ」、開発』において、富山県工業技術センターが、文部科学省の「知的クラスター創成事業」のひとつ「とやま医薬バイオクラスター」(写真上)における産学官連携プロジェクトとして、「細胞チップ」の開発に世界で初めて成功したニュースを伝えた。免疫機能をつかさどるリンパ球を1個ずつ採取できる(写真下)ことにより、インフルエンザや新型肺炎(SARS)といった感染症、アレルギーの治療薬開発への活用が期待されていたものである。
 そして、このたび富山市に、このチップをプラットフォーム技術とした初の起業で、抗体医薬の開発を目指すバイオベンチャー企業「エスシーワールド」が設立された。富山医科薬科大学や富山大学などの教授、企業の代表者らが発起人となり、県内外の企業の協力を得て実現した。県は特許使用の許可などで支援する。研究機関や製薬会社が取引相手となるが、「くすりの富山」ならではの医薬品の開発に期待が高まっている。富山の技術・研究成果が広まることを期待したい。
 リンパ球チップとは、1cm角のシリコン・樹脂基盤に直径10μmの穴を25万個配列した高精度の細胞チップのこと。富山県工業技術センターが富山医科薬科大学との共同研究によって開発した。人の体の中では、病原体が入ってくると、それを攻撃するために血液中のリンパ球が抗体を作る。ところがすべてのリンパ球が抗体を作るわけではなく、数十万個のうち数個から数十個程度のごく限られたリンパ球だけがその役割を担う。患者からリンパ球を取り出し、抗体を作っているリンパ球を特定して、それを取り出す時に必要となるのが、開発されたリンパ球チップ。これまでに、人の血液中の単一細胞から優れた中和活性を持つB型肝炎抗体遺伝子の抽出にも成功している。
 技術的には、リンパ球が1つの穴に1個だけ入ることや、チップ表面に水を流してもリンパ球が流れ出にくく、スポイトなどで取り出しやすい表面加工技術が使われていることも特長だ。チップの研究は、世界各国の研究機関などで進められているものの、穴の直径が大きく、リンパ球が数個も入ってしまうものが多かった。また、25万個それぞれの穴を番地化し、スキャナーで読み取ることができる仕組みにもなっている。


●安全性の高い抗体医薬品の開発を推進

 エスシーワールドでは、今後リンパ球チップの技術を使い、抗体探索用チップや抗体試薬の製造・販売、細胞の注入・特定・回収を自動化する細胞スクリーニングシステムの製造・販売を手掛けるほか、インフルエンザなどの感染症やがん、自己免疫疾患などの分野での抗体医薬品の開発を進める。抗体医薬品は、人体の免疫システムを利用し、抗体を人工的に作った医薬品。新薬の開発には10年以上かかるといわれるが、安全性の高い抗体医薬は創薬の期間が比較的短いという利点がある。エスシーワールドの末岡宗広CEOは「抗体医薬の市場は、現在の1兆円から5年後に2.4兆円規模になるといわれる有望分野。一度に25万個のリンパ球を採取し、抗体を調べることができるチップの優れた技術を使って抗体医薬の開発に取り組んでいきたい。スクリーニングシステムは18年度中に試作機を完成させ、19年度から本格的な事業展開を目指す」と話している。
 300年余に及ぶ薬の伝統を持つ富山県では、バイオ関連の新産業を育成する「とやまバイオバレー構想」を平成12年から推進。県内の大学や試験研究機関、企業などの産学官が連携して、医療・バイオ技術と電子・微細加工の技術を融合させ、新しい診断機器の開発や富山オリジナルの創薬による新産業の創出を目指している。また、新薬の臨床試験「治験」を受け入れるための「とやま治験ネットワーク」の構築が平成16年から進められている。[INT記事 No.172(2004.12.1)『新薬開発に「とやま治験医療ネットワーク」の活用を』参照。]とやまバイオクラスター事業からの初の起業となるバイオベンチャー企業の設立によって、新薬などの研究から臨床試験、製造までの環境整備が一層進むことになる。「くすりの富山」ならではの医薬品の開発に期待が高まっている。




問い合わせ
●富山県新世紀産業機構
とやま医薬バイオクラスター
TEL.076-444-5607
FAX.076-444-5630
http://www.tombic.net/

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